第2章 クローゼット
「そんなじろじろ見なくても、私、宿儺は飲み込んでませんよ」
「え……まさか悠仁のことも知ってんの?」
「そりゃ知ってるでしょ。虎杖悠仁知らないとか終わってる。今のはアニメ一話の宿儺の指を飲み込んだシーンの再現じゃないの?」
「アニメ? さっきから君は何言ってんの」
話が噛み合ってないけど、まさかこの人、五条悟単体しか知らないんじゃないよね? 呪術廻戦知らなくて五条先生の真似するとか邪道だから!
「恵くん、野薔薇ちゃん、硝子さん、伊地知さん、そして七海建人、知ってるでしょ? じゃ五条先生らしく、呪術廻戦山手線ゲーム行くよ。あなたも参加ね。はい、夏油っ!」
パンパンと2回手を叩いて振ってみたけど、返答しない。ノリ悪っ! 口を真一文字に結んでる。ブーだ。罰ゲームだ。まだまだ序の口なのに。
五条先生もどきは、私の発した"夏油"に驚いたみたいな顔しちゃって軽く口を開いている。それから真顔に戻ると再びじっと私を見つめてきた。
それは先程よりひんやりしたもので、目隠しをしていても少しぞくっと恐怖を感じる。
「君、一体何者?」
「軽度のオタクですけどなにか? っていうかこんなの基本中の基本ね。レイヤーさんなのについてこれないとか知識なさすぎ」
私はこの時、てっきりこの人はコスプレイヤーさんなのだと思っていた。それからしばらく「マジで誰?」「あなたこそ誰?」って双方共にやり取りが続く。深夜2時。ボロアパートでなんの掛け合いやってんだか。