第2章 クローゼット
ピッキングして潜んでいたとしても、この部屋に隠れるところなんてない。洗面所もトイレも浴槽も人はいなかったし、さっきクローゼットの中を見た時にも誰もいなかった。
スパイダーマンみたいに天井にはりついてたの? そこまでしてこんなボロアパートに押し入る理由がわかんない。
金じゃないってことは……性犯罪目的ですかぁ!
目の前の危機を回避せねばと、神経を集中した。警察の人から聞いたことがあるのだが、変質者に遭遇した場合、きゃあという声を出すとその悲鳴に興奮して余計に喜んでしまうらしい。毅然とした態度で接するのがいいのだそうだ。
静かに体を起こし、ずりずりとお尻を後退させ、ベッドのヘッドボードに背中をぴたりとつけて体勢を整える。枕の側に置いていたスマホを手にすることが出来た。
「ん? 誰かいんの?」
男が声を出した。やはりあのキャラにそっくりの声だ。
「誰! 警察呼ぶよ」
恐る恐るぱちっと部屋の電気のスイッチを付けた。一つ屋根の明かりの下、煌々とその姿が映し出される。男はこちらを向き、じっと私を見た。
「誰って、君こそ誰? 渋谷の地下街から出れたの? てかさぁー、ここどこ?」
「え、嘘」
すぐ押せるよう準備してたスマホのエマージェンシー緊急ボタンから指を離した。
「あなた……」
いやそんなわけない。ここは現実世界だ。この人がいるわけがない。
――暗闇の中から現れた大きな人影の正体は、呪術廻戦の最強キャラ、五条悟だった。