第2章 クローゼット
五条先生お願い、早く出てきて。あなたが必要なの……。ふうっと眠りの世界へと落ちゆく。夢と現実の狭間の夢うつつ状態のまま、私はまさに入眠しようとしていた。
"ギィィ"
木が軋むような音が聞こえたが、スミレさんの言葉を思い出す。古い木造アパートでは決して珍しい音ではない。眠気も相まってそのまま身をマットレスへと委ねた。
"ギギィィーガシャン"
これは……クローゼットを開閉した時の音だ。
「あ? ここどこ」
幻聴なのか人の声が聞こえた。眠りの境界線から少しこちら側へと引き戻される。それはひと言だったけど、知っている声に似ていた。
私が何度もアニメ配信で耳にし、動画サイトでも耳にし、ブルーレイ購入特典のドラマCDでも聞いた声。
vol3音声特典のナナミンと共演した反魂人形は最っ高でした!……ってそんな事、今思い出してる場合じゃない。
スマホから何かコンテンツが音漏れしているのかもしれないと、体を回転させ、暗闇の中スマホを探す。手を伸ばしたその時、ベッドのすぐ横に大きな人影の輪郭が見えた。人差し指の節で軽く目をこする。
「真っ暗ってことは、まだあの呪物ん中に封印されてんのか」
こすっていた指をピタリと止めた。誰かいる。さっきより確実にはっきりと声が聞こえた。男性の声だ。
目をパチリと開き、まだ見えにくい鳥目を懸命に凝らしてその影を見た。大きな声は不思議と出なくて、代わりに背筋にひんやりしたものが流れる。
声なんか出したら何が起きるかわからないという恐怖で身がきゅうっと縮こまる。なに? 泥棒? 一体どこから入って来たんだろう。