第6章 デートの練習
ちょっと待った。今、お子さんって言ったよね。お婆ちゃん、ちゃんと目、見えてる? 信号の赤、青、黄、大丈夫?
私と五条先生の間に子供なんて、絶対眼鏡の度数が合っていない。このファンキーな人と普通の平均値ど真ん中みたいな私が夫婦なんて……っていうか私まだ24才だけどそんなに所帯じみてんの!?
思ってる事が全て顔に出てしまっているのか、五条先生は下を向いて忍び笑いしているようだ。
夫婦じゃないし子供もいませんよって否定しようと思ったけど、顔を綻ばせて嬉しそうに草団子を取り分けるお婆ちゃんを見たら、違いますとは言いにくかった。
この町はお隣に住んでるボブとスミレさんみたいに、海外から来た労働者と日本人が一緒に暮らしているペアが多い。
薬指に光るものがなくても、お団子を二人で買って帰る時点で夫婦か内縁関係だと思われるのかもしれない。
おまけの草団子の分の小銭も取り出そうと、財布の中を探っていると、お婆ちゃんが五条先生に話しかけた。ハローって。上背あるし、ドレッドヘアーだし、外国の人だと思ったみたいだ。
「仲良しこよしだねぇ。可愛いお嫁さんだねぇ」
「えぇ。僕には勿体無いくらいのね」
お婆ちゃんは、あらまぁと目尻を下げて微笑んでる。
――な、なに言ってんの。おい!
五条先生! って声を出そうとして、その言葉を引っ込めた。
ひょっとしたらこのお婆ちゃんも呪術廻戦を見ているかもしれない。五条悟推しかもしれない。うっかり名前を出して本人だとバレたら大変だ。
先生って呼びたくても、私達のことを夫婦だと思っているからそれすら口に出せなくて、結局可愛いお嫁さん風にニコッと笑うことにした。