第6章 デートの練習
「ちょっとちょっと、無視はなくない?」
「……」
「僕もちょうど小腹すいてんだよね。千愛、聞いてるー?」
そこまで言われて初めてこの声は同居人の声だと気付き、慌ててもう一度その男に顔を向けた。
「え、まさか」
「グッドルッキングガイの五条悟くんです」
サングラスを数センチ上にずらすと空色の瞳とふさふさの白まつ毛が見える。
「五条先生!?」
大きな声で名前を口に出し、それからしまった! と辺りをきょろきょろ見回した。
何人かこちらに注目しているけど、おそらく彼のドレッドヘアーに目を向けているだけで、五条悟だと勘付いているわけではなさそうだ。今一度、先生の方に向き直る。
「その髪どうしたの?」
「どうしたのって、君が用意した変装グッズじゃん」
「うそ、こんなウィッグだった?」
「そーだよ」
買い物をした日の記憶を手繰り寄せる。変装用のグッズを買ったあの日は五条先生がこちらの世界に来たばかりで、190cmの服の買い物をするのに右往左往して疲れきっていたから、値札だけ見て適当に購入したんだった。まさか手にしたのがドレッドヘアーだったとは。