第6章 デートの練習
よもぎのいい香りがする。匂いに誘われるように鼻先を向けると、小さなお団子屋さんがあった。
暖簾下に草団子が並べられていてお値段は1本120円。おやつにちょうどいいお手頃価格だ。店の奥には出来たてほやほやの粒あんを草団子に乗せる職人さんの姿が見える。
――おいしそう。五条先生好きかな? お土産に買って帰ったら喜ぶかな?
そんなことを思っていると後ろから声が聞こえた。
「美味そうだねぇ」
初めは自分に声をかけられたのだと気付かずにいると「一緒に食べない?」と再び背中から声が聞こえる。
ゆっくり振り向くと、背の高い黒髪のドレッドヘアーの男が立っていた。すうっと通った鼻筋に薄茶色のレンズが入ったサングラスをかけている。
――誰?
素早く前に向き直った。今まで駅からアパートまでの帰り道で、こんな風に見知らぬ人に声をかけられた事はない。怖くなって足早にその場を離れようとすると男は付いて来る。いったいなに?