第6章 デートの練習
五条先生がこちらの世界にやって来て数日経ったとある日の昼下がり、私は駅の改札を抜け、アパートまでの道のりを歩いていた。
この日はもともと休みだったのだが、パートさんのシフトの兼ね合いで半日出勤となり、今しがた仕事を終えて帰ってきたところだ。
手をこすり合わせて、はぁーっと長めの息を手に吹きかけた。白い息が指の隙間からほわっと漏れ出て空気中に溶け込んでいく。
早く帰って温かい珈琲でも飲もう。そんな事を思って、コートのポケットに指先を深く突っ込み、歩みを早める。
コンビニやドラッグストアが立ち並ぶ賑やかな通りを抜け、スーパーマーケットまで来ると、昔ながらの商店がぽつりぽつりと姿を現す。
その一角を右に曲がって真っ直ぐ行けば、私の住む木造三階建てのボロアパートがあるのだけれど――途中で私は足を止めた。