第56章 #56 幸せになれ
リリアを乗せた船がパラディ島の港に到着すると、そこにはすでに憲兵団が迎えに来ていた。
おそらく逃亡させないためだろう。
船から降りると師団長であるナイルがリリアを出迎えた。
「リリア・スミス兵士長、馬車に。このまま王都へ連行だ」
「……はい」
馬車に乗ると一緒にナイルも馬車に乗り込んだ。
直ぐに馬が走り出し、滑車の音に紛れて小さくナイルが口を開く。
「リリアちゃん…聞いたよ。エレンが失踪したって?」
「うん…」
「見つからないのか?」
「皆で捜してるんだけど…なかなか見つからなくて」
「噂じゃリリアちゃんが逃したって…」
「違うよ……確かに私の油断で見失っちゃったけど……わざと逃した訳じゃない」
だよな、とナイルが息を吐く。
するとリリアの右腕に気が付いた。
「腕どうした?」
「エレンに折られた」
「はっ?!はぁぁぁ?!」
「ナイル兄ちゃん!!シー!!!」
驚きに大きな声を出してしまい、ナイルは慌てて口を塞いだ。
しかしこの怪我ならリリアがエレンをわざと逃したという噂は否定できるかもしれない。
「とにかくリリアちゃんは自分が逃したんじゃないって強く否定するんだ。上の奴らはエレンの失踪に焦っている。リリアちゃんに何をするか分かったものじゃない」
「大丈夫、でも自分の失態は認めるよ」