第21章 #21 王政奪還
言い残したい事はあるかと聞かれたが、全てをエルヴィンに任せるため、リリアは首を振った。
エルヴィンは前を見据え、口を開く。
「調査兵団を失うという事は人類の矛を失う事を意味します。迫りくる敵から身を守るのは盾ではなく脅威を排除する矛です。例えば今この瞬間、ウォール・ローゼが破られたとします」
ウォール・ローゼの住民を再びウォール・シーナ内に避難させる事となるが、先日の避難で食料の備蓄は底をつき、数日ともたず瞬く間に住民の殆どが生存競争を強いられる事となる、とエルヴィンが言う。
そしてさらにエルヴィンは続けた。
「ウォール・ローゼとシーナ、二分した人類による内戦の開始を意味します。よしんば壁が破られないにせよ、既に食料不足はウォール・ローゼで慢性化しています。ウォール・シーナの壁を破るのは巨人ではなくウォール・ローゼの住民である可能性は0ではありません」
その言葉で回りにざわめきが起きる。
「ウォール・マリア奪還、行き詰まった人類の未来をを切り開くにはそれしかありません」
「そのために調査兵団が必要だと言いたいのか?」
「相手の懐に飛び込むのは我々調査兵団の役目、引き下がるのみではなんの解決にもなりません。それとも、この状況を打破する何かしらの秘策があるのでしょうか」
王政の貴族達はエルヴィンの問いに眉をひそめた。
しかし彼らはその問いには答えず、今は壁内の未来を話し合う為ではなく、エルヴィンとリリアが個々の利益を優先し人類の存続を脅かしたという重大違反を起こした、と話を逸らした。
再三にわたるエレンの引き渡しの拒否が、人類憲章に抵触する、と。
リリアはふぅ、と回りに聞こえないくらいに小さく息を吐いた。
何を言ってもこの者達は上手く言いくるめてくる。