The best happy ending【東リべ/三ツ谷】
第5章 聖夜決戦
「大寿ぅぅ!!!!」
八戒の叫び声が響く。
その声に振り向いた和泉は目を見開かせた。
何せ彼の手にはナイフが握られていたのだから。
「八戒!?」
「油断はよくねぇぞ神澤〜」
大寿の声が耳元に聞こえ、振り返ろうとした瞬間和泉は頬に痛みを感じ、そのまま殴り飛ばされていた。
背中が勢いよく椅子に辺り、痛みに目を見開かせる。
「うぐっ!?」
頬が痛み、背中が痛み、視界が揺らぐ。
和泉の口からは咳が出るが、痛みで顔が歪んで声も出ない。
八戒は和泉のその姿を見て、更に怒りと恐怖が込み上げてきた。
目は血走り、体は震えている。
「オレだって……オレだってっ、やれるんだ」
「……はっ、かい……」
やっとの事で和泉は声を絞り出すが、八戒にはその声が届いていない。
「やれるんだ!!」
ナイフを握った八戒は大寿目掛けて走り出す。
「あああ!」
大寿へと迫り、もう少しで彼の元に辿り着くという瞬間だった。
八戒の目の前に武道が飛び出し、彼に頭突きをしてその動きを止める。
突然の痛みに八戒の顔は歪む。
そして武道は目に涙を浮かべながら、頭突きをした際の痛みを耐えた。
「邪魔すんなタケミチ!!」
武道は八戒の言葉を気にせず、彼が手にしているナイフの刀身を握り締めた。
「わかんねぇのかよ八戒……こんな事したらオマエ、どうしようもない奴になっちゃんだぞ!?こんなんじゃねぇだろ!“立ち向かう”って事は……」
八戒を真っ直ぐに睨みつけた武道は彼に背を向けると、大寿へと向き直る。
「立ち向かうっていう事がどういう事かオマエに見せてやる!」
「あん?まだ懲りねぇのかクソガキ」
目の前に青筋を浮かべた、自分より遥かに体格もいい大寿がいる。
その事に武道は荒い息を何度もしながら、脳内でヒナの言葉を思い出した。
『君は負けるってわかってて、助けに来てくれたんだよ』
「『まだ懲りねぇ』だと?それだけが取り柄なんだよ」
その後ろ姿、言葉に和泉は目を見開かせた。
あの時と変わらないヒーローの背中だ……と。
「行くぞ、大寿!!」
走り出した武道は殴りかかろうとしたが、先に大寿の拳が顔面にめり込んだ。
「たけ、みち……!」
「タケミっち!」