第1章 カノジョのくるま
数日後…
「ただいまァ…。」
その日、実弥さんはいつもよりお疲れモードで帰宅した。
「実弥さん、おかえりな…」
「鈴チャン、ただいまーー!!」
私が言い終えないうちに、ちょこっと現れたのは宇髄さん。
「わー!宇髄さんもおかえりなさい!え、あ…じゃなくて、こんばんは」
この前宇髄さんに会えなかったから嬉しくなって、変な挨拶になってしまった。
「鈴チャンのおかえりは嬉しいねぇ。」
相変わらず、テンションの高い宇髄さん。
(あんな風にイタズラっぽくニヤッてされたら大抵の女の子はすぐ惚れちゃいそうだなぁ…。)
「チッ」
私のそんなくだらぬ妄想は、機嫌の悪そーな実弥さんの渾身の舌打ちでかき消され、現実に引き戻されたのである。
「ったく、鈴チャンこんなに可愛いのに、この男ったら機嫌悪ー。じゃ、鈴チャン、これあげるわー。」
宇髄さんはそういうと、私の右手にサッと紙のようなものを持たせ、
「触んなァ。」
と宇髄さんの腕に掴みかかろうとする実弥さんをするりと避けて、
「んじゃ、邪魔したな!」
と颯爽と帰って行った。
(もっとおもてなししたかったのになぁ。)
そう思いながら、渡された紙を確認する。
そこには“私のピンクのラパンから降りる実弥さん“が写っていた。
(なんか、素敵!)
写真を大事に両手で握りしめて、写真の中の実弥さんと目の前のご機嫌ナナメな実弥さんを交互に見てニヤニヤが止まらない。
「何ニヤニヤしてんだァ。」
まだまだご機嫌ナナメながら、対同僚からちょっぴり恋人モードになった実弥さんの口調はほんのちょっと優しかったけど、
「実弥さん、可愛いですね!!!」
と言うとまた仏頂面に戻ってしまった。
私はまた写真を眺めながら、
「私の車いつでも貸しますよ!またお仕事乗っててください!」
「宇髄たちがうるせぇから行かねェ。」
「えー。こんなに可愛いのにぃ。」
写真の中のピンクのラパンに乗ってる実弥さんも、ちょっぴり不機嫌な実弥さんも全部可愛い。
「でも、今度のデートは実弥さんの車で連れてってほしいなぁ」
そんな実弥さんをぎゅっと抱きしめて囁けば、
「おうよ。」
と、いつものかっこいい実弥さんお帰りなさい。