第1章 カノジョのくるま
家について玄関のドアノブを掴んだ実弥さんが一旦立ち止まる。
「悪りぃ、ちょっと散らかした…。」
(宇髄さんたちでも来てたのかなぁ。私も会いたかったなぁ。)
「うん。大丈夫。」
玄関へ入れば実弥さんに抱きしめられる。
「実弥さん、ただいま。」
「鈴、おかえり。」
2人でリビングに向かうとやはりうっすら宴の後。
食器はシンクに運んであるけど、換気して、もうちょっと片付けなきゃ…。
「宇髄さんたち?」
私はただ知りたかっただけなのに、
「アァ。悪りぃなァ。俺、片付けるから荷解きでもしててくれェ…。」
と気まずそうな実弥さん。
「ううん。じゃぁお言葉に甘えてそうさせてもらうね!」
リビングは実弥さんにお任せし、寝室で荷解きを始めたものの
(宇髄さんたちが飲みに来たことを怒る訳ないけど、たった一泊なのに寂しかったのは私だけだったのかなぁ。実弥さんは、宇髄さんと煉獄さんいるから寂しくないよね。あー私、なんてめんどくさい女なんだろ…。)
とモヤモヤしてしまう。
「鈴、荷解き終わったかァー?」
という実弥さんの声で我にかえり慌てて終わらせ、恐る恐るリビングを覗きに行く。お実弥さんは、リビングの真ん中で掃除片手に立っていた。
「どうしたァ?」
「ん?何が…。」
「何か言いたいことあんだろォ。」
実弥さんは言葉は時々キツいけど、いつも優しい。
そして、いつもこんな風に優しく聞かれてしまうと私は実弥さんを誤魔化すことはできないんだ。
「宇髄さんたちと会いたかったなぁと思って。」
「アァ、今度言っとくわァ。んで鈴、ぜってェそれだけじゃねぇだろォ。」
「たった一泊なのに私、出張寂しくて。実弥さんは、宇髄さんたちいたから寂しくなくていいなぁって思ったの。めんどくさい女でごめんね…。」
声を震わせてしまった私は、気づけば実弥さんに後ろから抱きしめられた。そして、
「馬鹿ァ。寂しいわァ…。」
と耳元で囁く実弥さん。実弥さんにギュッと抱きしめられて、さっきまで寂しかった心が一気に満たされた。
しばらくして私が落ち着いたことを確かめると実弥さんは掃除機を拾い上げ
「鈴好きだァ。」
とぽそりと呟くとかき消す等に掃除機をかけ始めたのだった。