第1章 カノジョのくるま
その日の業務を終え、帰りまで騒がれたら堪らないと辺りを見回しながらピンクの車に乗り込み家に向かう。
鈴の
“おかえりなさい、実弥さん”
の声がない我が家は静けさが漂っていて鈴が恋しい事この上ない。しばらくすると、
“ピンポーン”
「不死川〜入るぞー。」
「お邪魔する!」
チャイムと同時に入ってくる同僚たち。
鈴と住む前は、ほんとよく入り浸ってたなぁコイツら。
今はコイツらなりに気を遣っているんだろう。
慣れた手つきでテーブルに買ってきたビールやらつまみを並べていく。そこから先は男3人、まずは乾杯をして各々酒やつまみの手を伸ばす。
「うまい!うまい!」
「オメェは毎回人の家でうっせぇんだよォ。」
「すまん、不死川も食べるといい。」
と差し出されたのは、“スイートポテト”
(ツマミこれかよ…。コイツどんなセンスしてんだァ…。まぁ、今日はそこまで飲まねぇつもりだし食うかァ。)
「アァ。貰っとかァ。」
と受け取る。
「不死川〜鈴とは仲良くやってるのか〜?」
と酔っぱらいのテンションで聞いてくる宇髄。絶対コイツが聞いてくる真意はわかっているが、
「ケンカとか滅多にしねぇし、仲いいぞォ。」
とわざとありきたりな回答をする。
「それはいい心掛けだ!」
と素直に喜ぶのは煉獄だけで、宇髄は不服そうに睨みつけてくる。
「宇髄、水飲むかァ?」
と席を立とうとした俺に着いてきた宇髄が、慣れた手つきで水切りカゴから手に取ったガラスのコップを即座に奪う。
「危ねぇなぁ。何だよー。」
「ほれよォ。」
と食器棚から取り出した代わりのコップを押しつける。
「サンキュ。てか、だから何だよ。」
「ア゛ァ、鈴のなんだよ。そのコップ。」
「何だよ、細けぇなぁ。不死川くんもしかして間接キスとか気にしちゃってんのぉ〜?」
「気にしてねぇし…。」
そう答えたものの、“間接キス”と口に出されると意識してしまい、絶対に使わせたくないと言う気持ちが増していった。
「だったら、俺ソレがいい。」
(チッ、宇髄のやつ煽りやがってェ。)
「あ゛ー、めんどくせぇなァ。黙って水飲めやァ。」
渋々水を飲む宇髄の横で、俺は、鈴のコップを大事に食器棚へしまい込んだ。