第1章 カノジョのくるま
「実弥さん、おはよ。」
「アァ…。おはよ。」
今日、私は出張。しかも、一泊の…。
いつもより早めの朝食にまだ眠たいのか、それとも出張が寂しいのかちょっぴりご機嫌ナナメな実弥さん。
「何時に出るんだァ?」
「あと30分くらいで支度して駅まで行くつもり。」
「駅に車置いてくのかァ?」
「うん。…?」
(なんかマズイ?私の車だけど…?)
「ちょっと早めに出てもいいかァ?駐車場代もったいねぇし送るわァ。」
「いいの?ありがとう実弥さん!」
今日は、実弥さんもお仕事。
教師の実弥さんが遅刻する訳にはいかない。
朝食を食べ終えて、2人で慌ただしく支度をする。
「鈴、荷物それだけかァ?」
と玄関を出る前に実弥さんに聞かれて、昨日のうちに自分の車に乗せた事を思い出した。
せいぜい小型のキャリーケースひとつだけど、実弥さんの車に乗せ替えるのはちょっぴりめんどくさい。
そんな私の心を読んだのか実弥さんは、
「荷物車かァ?鍵貸せェ。今日、車借りるぞ。」
と私の手から車の鍵を取り運転席側へ向かう。
実弥さんと出かける時は、いつも実弥さんの車を運転してくれるからこの車乗るなんて珍しい。なんなら運転するなんて…。
「ほら行くぞ。」
ともう一度言われ、珍しく自分の車の助手席に乗る。
なんだか不思議な気分。
「お願いします。」
「アァ。」
と実弥さんがエンジンをかけて車を発車させる。
かき分けた長い前髪のウェーブ、いつも開けているワイシャツの襟元。実弥さんの運転中の横顔はいつも見惚れてしまう。