第5章 大変だ、飯がない!
しとしと降り続いた長い雨が終わり、陽の光が燦々と降り注ぐ暑い季節がやって来た。
窓を開け放った蝶屋敷の診察室にいる俺は、先程から休みなく蝉の大合唱を聞かされている。
「よくもまァ飽きもせず鳴けるもんだなァ」
「それが仕事ですからねぇ。…はい、終わりましたよ」
俺の腕の包帯を巻き終えた胡蝶に、変えの包帯と塗り薬を渡される。
「一日一回きちんと塗ってくださいね」
「オォ、ありがとなァ」
「それにしても、どういう風の吹き回しですか?最近はちゃんと傷の手当てに来てくださいますけれど。何かありました?」
「…何か、つぅか…。葉月がなァ…」
「葉月さんが、どうかされたんですか?」
胡蝶は手際良く後片付けをしながら聞いてくる。
俺はその時のことを思い出しながら呟いた。
「俺の…、傷が増えると泣くんだよォ…」
ついこの間のことだ。
戦闘中、鬼の爪が胸を掠り傷を作った。
幸い深くはなく、慣れている俺はこんなモノ痛くも痒くもない。
が、血は出ていた。
止血をしてとりあえず包帯を巻き、その日はそれだけして寝ることに。
翌日包帯を外すと、血はしっかりと止まっていた。
傷痕は残るだろうが、まぁいいだろう。
いつものことだ。
そのまま俺は何も気にせず、夕方葉月の店に向かうため家を出た。
店に着くと、丁度仕事終わりの葉月が中から出てくる所だった。
俺の姿を見つけると、ぱぁっと顔を輝かせ、嬉しそうに駆け寄って来た。
それがなんともクソ可愛くて、思わず抱きしめてやろうかと思ったその直後…。
俺の胸元を見るなりその可愛い顔が一変。
一瞬にして驚きへと変化した。
みるみるうちに涙が溢れる葉月に何事かと慌てる俺に、
『もっと自分の身体大事にしてください!』
涙を流しながら訴えたのだ。