第2章 母
「こういう…お前とそうなりたいとか、そう言う話は今お前の親代わりの女将さん達に話すべきかとも思ったんだが…」
「はい…」
葉月は俺の胸に埋めていた顔を上げ、次の言葉を待つように黙って俺を見つめた。
「お前と一緒になりたいってのは、やっぱり誰よりも先にお前のお母さんに言っときたかったんだよ」
知っておいてもらいたかった。
俺の葉月に対する想いを。
天国から見守っているであろう葉月の母親に。
俺の言葉を聞いた葉月は、目を見開いたかと思うとまた俺の胸に顔を埋めぎゅっとしがみつく。
そっと腕に包み込み「葉月?」と優しく呼んでみるが、なかなか顔を上げず心なしか身体が震えていた。
これは…
「実弥さんっ…嬉しすぎます!お母さんのこと一番に考えてくれて…」
「お前の家族だ。当然だろォ」
「泣きそう…私」
「オイオイ泣くなよォ」
泣きそうと言った頃には既にもう泣いていた。
やっぱりな。
ホント、よく泣くなァ
感情表現豊かな葉月をぎゅうっと抱き込みよしよしと背中をさすってやる。
「私、こんなに素敵な人のお嫁さんになれるなんて…夢みたいです」
「素敵って…お前大袈裟」
「幸せ過ぎてどうにかなりそう」
「どうにかなってもちゃんともらってやらァ」
そんな事を言い合っていたら段々と可笑しくなってきて、お互い目を見合わせてフッと笑った。
流れた涙を指で拭ってやり、額にそっと口付ける。
そのまま額同士をくっ付け、囁くように告げた。
「嫁に来い、葉月」
「はい、喜んで」
葉月は笑顔の花を咲かせた。
どちらからともなく顔を近づけ、優しい口付けを交わす。
俺だって、幸せ過ぎんだよ
お前がこんな俺を受け入れてくれて、嬉しくて、
俺のがどうにかなっちまいそうだ
角度を変えながら、啄むように唇を合わせる。
柔らかな唇の感触に、俺の鼓動は跳ね上がった。
アァ、離れたくねェ…
そんな事を思いながら、時間の許す限り、この幸せな口付けに溺れた。
家の外で待機していた爽籟が、痺れを切らして突入して来るまでの間…だけどなァ。
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