第1章 幸せのカタチ
「不死川、相手の幸せを考えて動ける所はお前のいい所だと思う。だがな、たまには自分の幸せを考えたっていいんじゃないか?」
自分の幸せ…考えた事もなかった。
大切なものを守るために鬼を狩る。
それしか考えてこなかった。
いつだったか、思い切り突き放してしまった最愛の弟の事を思い出す。
どこかで幸せになってくれたらそれで良かったのに…
「本当はどうしたいのか、良く考えてみろ。まぁ、店まで様子を見に来ている時点で答えはもう出ているようなものだがな」
「るせー」
「最善の選択をしてくれる事を期待している」
「最善ね、まぁ考えてやってもいい」
「そうしてくれ。俺はそろそろ戻る」
「あァ、……伊黒ォ!」
俺は戻ろうとする伊黒を呼び止めた。
「ありがとなァ」
伊黒は驚いて目を見開いたが、また直ぐに元に戻った。
「少し助言しただけだ…友人として」
そう言って伊黒は店の中へ戻って行った。
鬼殺隊の中では一番気の合うヤツだと思っていた。
友人か…悪くねェ。
伊黒はそう呼んでもいい、その方がしっくりくる気がした。
俺はさっき言われた事を思い返す。
『本当はどうしたいのか』
そんなの、一緒にいたいに決まってんだろ!
だけどよォ、仮に俺が先に死んじまったら、アイツ泣くだろ。
「会えねェ」って別れてから3日家に引きこもったみてェで心配でこっそり行ってみたら、家ん中から聞こえてきた。
アイツの泣き声が。
俺が泣かせちまったんだ、泣かせたくなかったのに。
聞いてるだけで辛かった。
だから、泣くような人生は送ってほしくねェ。
本当はそばにいたい。
でも俺といたら泣くほど辛い事が待ってるかもしれない。
…ダメだ。
伊黒には悪いが、やっぱり俺は水篠には会えねェ。
「はぁ…」
ため息を一つつくと、俺は一旦自分の屋敷へ戻る為に歩き出した。
今日はこの後任務だなァ…
そんな事を考えながら空を見上げる。
俺の気持ちとは裏腹に、今日も清々しいほどに晴れ渡っていた。