第9章 二人の少女<肆>
(なんだ、大海原は何をしている・・・!?)
(何を考えてやがる!あのガキ!?)
しかし、その疑問は次の瞬間否が応でも解消させることになった。
三人に向かっていたはずの斬撃が、大きく逸れてあらぬ方向に飛んだのだ。
(何だ!?奴の動きが大きく乱れた!)
何が起こったのか分からず、皆は思わず足を止めた。すると、
「う・・・歌を・・・やめろ・・・!!」
その視線の先では、黒死牟が苦しそうに耳を塞ぎ、歯を食いしばっていた。
(あいつ・・・、汐の歌に苦しんでいる・・・!?)
離れた場所にいた無一郎は、目の前の光景がにわかに信じられなかった。だが、それは一瞬の事。再び鬼の斬撃が三人に向かってきた。
(だけど、さっきよりも明らかに技の精度が落ちている・・・!理屈はわからないけれど、汐の歌を途絶えさせちゃ駄目だ!!)
「悲鳴嶼さん、不死川さん!!」
無一郎の声と同時に、悲鳴嶼は身に着けていた数珠を、黒死牟の刀を持つ手に投げつけた。
黒死牟が気を取られるとほぼ同時に、強烈な風の刃が再び向かう。
――風の呼吸 壱ノ型
――塵旋風・削ぎ
風は黒死牟の両足を削ぎ落とし、大きく体勢を崩す。そして死角から、悲鳴嶼の投げた鉄球が右肩を大きく抉り取った。
その間にも歌は黒死牟の耳と脳、そして記憶を揺らし蝕んだ。
(やめろ、やめろやめろ!!)
身体を再生させながら、苦しみに抗いながら、黒死牟は叫んだ。
「これ以上私をかき乱すな!みおーーーー!!!」
その名を叫んだ一瞬の隙を突いて、鳩尾に何かが突き刺さった。視線を動かせば、左足を斬り落とされながらも刀を突き刺している無一郎の姿があった。
その時の彼は気づかなかったが、無一郎にも悲鳴嶼と同じく、鬼の身体が透けて見える世界が見えていた。汐の歌で心を乱されながらも斬撃を放ち続ける攻撃を掻い潜り、ここまでたどり着くことができた。
(離すな、離すな!!バラバラにされても、汐の歌を途絶えさせるな!)
無一郎は歯を食いしばって、必死で刀に力を込めた。その背後からは悲鳴嶼と実弥が向かってくる気配がする。
いや、気配はもう一つあった。