第9章 二人の少女<肆>
黒死牟という鬼がまだ、継国巌勝という人間だったころ。彼には、継国縁壱という双子の弟がいた。
彼には恐ろしい程の身体能力と、常人には決してたどり着けない世界が見えていた。
そんな縁壱を、巌勝は心の底から憎悪していた。
二人は一度は離れたが、十数年後に再び出会い鬼狩りの道へと進んだ。
そんな中、遠くへ任務に出ていた縁壱が連れてきたのが、一人の若い女性だった。
その姿を初めて見たとき、巌勝は驚愕した。
身体はやせ細り、手当てはされていたものの所々に傷があった。だが、そんなものよりも皆が目を奪われたのは、彼女の海の底のような真っ青な髪の色だった。
縁壱やとある家の者を除き、皆はその髪の色を気味悪がり、得体のしれない者を連れてきた縁壱を咎めた。だが、お館様の許可はすでに貰い、彼女を手厚く迎えることは決定事項だった。
女性は驚くほど、何もなく、何も知らず、何も出来なかった。名前すらなく、辛うじて言葉は話せるもののの、まるで幼子のように拙い口調だった。
そんな彼女には"みお"という名前が与えられた。
みおはとても賢かった。一度教えたことはすぐに覚え、六月程経つ頃には鬼殺隊の裏方の仕事までできるようになった。
そして時折奏でられる美しい歌声は、戦いに疲れた皆の心と体を癒した。
それは、巌勝も例外ではなかった。