第8章 二人の少女<参>
「お前は・・・」
黒死牟は、目の前の光景に目を疑った。
かつて無限列車で対峙した際、汐が向けていたのは怯えと、微かな矜持。
だが今、自分の前にいる少女から感じるのは、はっきりとした決意とゆるぎない信念。
あの時とは比べ物にならない程強くなっていることを、本能で感じた。
そんな彼に向かって、汐は静かに口を開いた。
「やっと見つけたよ。上弦の壱。いや、継国巌勝」
「!?」
汐の口から出た名前に、黒死牟は大きく目を見開いた。
それは、彼が人間だったころの名前であり、数百年前に鬼となった時に捨てた名前。
その名を、何故知っているのか。微かに、空気が揺らいだ。
「あなたを止めに来た」
汐の凛とした声が、黒死牟の耳に届いたとき。彼の脳裏に声が響いた。
『巌勝様!』
その声と同時に、青く長い髪を揺らす、一人の女性の顔が浮かぶ。
「ああ・・・・そうか・・・。やはり・・・"そこ"に・・・居るのだな・・・」
――澪(みお)
黒死牟がその名を呟いたとき、冷たい風が二人の間を抜けて行った。