第7章 二人の少女<弐>
猗窩座は炭治郎に視線を向けると、口元に笑みを浮かべ――
――自らの身体に、滅式を放った。
(自分で、自分を・・・?)
炭治郎は猗窩座の意図が分からなかった。ただ、ひとつだけわかったのは、技を放つ直前に猗窩座から感謝の匂いがしたことだ。
ボロボロになった猗窩座の身体は、再生しながらも、ふらふらとどこかに向かって歩きだそうとしていた。
まるで誰かを探しているかのように。
するとある一点で止まると、そのまま膝をつき、両手を前に伸ばした。それはまるで、誰かを抱きしめているかのように。
「あ・・・」
炭治郎は小さく声を上げた。再生していた猗窩座の身体が崩れ始め、そのまま灰になって消えていった。
炭治郎達に猗窩座の過去はわからない。だが、身体が崩れる直前に悲しい匂いがした。きっと彼も、どこかで何かを失ったのだろう。
「終わっ・・・た・・・」
炭治郎はそれだけを呟くと、床に吸い込まれるように倒れていった。
(早く、汐の所に・・・、そして、珠世さんのところに・・・)
しかし炭治郎の意志に関係なく、意識は闇に沈んでいく。
義勇も疲労困憊で動けず、折れた刀で身体を支えながら蹲った。
「カァー!!炭治郎、義勇、上弦ノ参撃破!!疲労困憊ニヨリ意識保テズ、失神!!」
鎹鴉の声が、二人の勝利を城中に知らせる中、もう一つの情報が飛び込んできた。
「カァー!!大海原汐、上弦ノ伍撃破!!疲労困憊ト毒霧ニヨリ意識不明!!」
その報せは幸か不幸か、炭治郎の耳に届くことはなかった。