第2章 幕間~紡ぎ歌(胡蝶しのぶ編)
その時は、何の前触れもない平和な日に訪れた。
柱稽古の際に怪我をしてしまった汐は、傷薬を貰うために蝶屋敷を訪れていた。
怪我自体は大したことはなさそうだが、小さな傷でも悪化してしまえば命に関わるものになってしまう。
そして間の悪いことに、汐がいた屋敷では薬が切れてしまっていたため、やむを得ず蝶屋敷に戻ることになったのだ。
屋敷の前についた汐は、中が妙に静かであることに首を傾げた。
(あれ、随分静かだわ。誰もいないのかしら)
「おーい!誰かいないの―!?」
汐が呼びかけるが、返事はない。今は鬼は出ないから重傷の隊士はいないはずだ。
(みんな買い物にでも出かけているのかしら。でも、全員で屋敷を開けるなんて不用心にも程があるわ・・・)
汐は少し嫌な予感を感じながらも、屋敷の中へ足を進めた。
中は本当に静かで、聞こえるのは自分の足音だけ。
少しずつ沸き上がる不安に耐えながらも、しのぶがいるであろう診察室へと足を進めた。
「こんにちはー。しのぶさん、いる?実は怪我しちゃって・・・」
だが、汐の言葉は診察室を除いた瞬間に途切れた。
そこには、床に倒れ伏すしのぶの姿があった。
「しのぶさん!!」
汐はすぐさましのぶに駆け寄り、その体を起こした。
そしてその顔を見て、思わず息をのんだ。
しのぶの顔色は、真っ青を通り越して土気色に近い色になっていたのだ。