第5章 無限城<参>
時は遡り。
元兄弟子であり師の仇である獪岳した善逸は、雷の呼吸と血鬼術による猛攻に、全身がひび割れるほどの重傷を負っていた。
だが、その中で善逸自身が独自に編み出した、雷の呼吸漆ノ型 火雷神で獪岳を退けた。
その反動で善逸も死の淵に立たされたが、師の言葉と鬼殺隊士に扮した愈史郎の賢明な処置により一命をとりとめたのだった。
更に時は遡り。
産屋敷の別邸では、父輝哉に代わり当主の座に就いた産屋敷輝利哉が、愈史郎の血鬼術の札を貼りつけた鴉から送られてきている情報元に、無限城の見取り図の作成に励んでいた。
その傍らでは珠世が作った人間に戻る薬を投与された禰豆子がおり、その護衛に鱗滝、宇髄、槇寿郎がついていた。
鱗滝の心臓は早鐘のように打ち鳴らされていた。禰豆子が人間に戻れば、無惨の目論見は潰える。
だが、それは前例のないことであり、何が起きるか誰にも分からない。
鱗滝は思い出していた。鬼になった妹も戻す為に鬼殺の道を選んだ炭治郎。
そして、旧友の娘であり、生まれる前から鬼と戦う宿命を背負っていた汐。
彼等が現れたことにより、運命は一気に大きく動き始めたような気がした。
(負けるな、禰豆子。負けるな、炭治郎。負けるな、汐)
鱗滝は三人の無事を、強く、強く願った。