第3章 無限城<壱>
鬼の本拠地、無限城。
内臓が押し上げられるような感覚に吐き気を覚えながらも、汐は周りを見回した。
そこは壁や天井が滅茶苦茶に繋ぎ合わされた異空間。まとわりつくような嫌な気配が、鬼の根城であることを否が応でも気づかせた。
(こんなところで足止めを食っている場合じゃない。珠世さんが奴を押さえつけていたみたいだけれど、奴があのまま大人しくしているはずがない)
汐はすぐさま床らしきものがせり出しているところに右手をかけ、腕一本でぶら下がった。だが、汐のすぐそばを落ちていた炭治郎は、体勢が悪いのかそのまま落下していく。
「炭治郎!!」
汐が叫んで手を伸ばすが、刀を持っているため炭治郎を掴むことは不可能だ。だが、炭治郎の身体は、柵らしき場所から身を乗り出した義勇によって掴まれていた。
「ぎっ・・・」
炭治郎が義勇の名を呼ぶ間もなく、義勇は遠心力を利用して炭治郎を下の隙間に放り込んだ。
炭治郎は受け身を取ると、すぐさま起き上がり上を見上げた。
「大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます。助かりました」
覗き込む義勇に炭治郎は答え礼を言った。
「あのっ!反対側に汐が・・・」
炭治郎は反対側にいた汐を心配し顔を動かそうとした、その時だった。
炭治郎の鼻が鬼の匂いを感じ取った瞬間、背後に鬼が迫っていた。
――水の呼吸 壱ノ型
――水面斬り
炭治郎がすぐさま振り返り、鬼の頸を落とす。だが息をつく間もなく、目の前の襖が膨れ上がった。
「炭治郎!!」
義勇の声とほぼ同時に、襖を突き破って夥しい数の鬼が炭治郎に襲い掛かってきた。
「どいて!!」
空気を斬り裂くような声と共に汐が反対側から飛び出し、鬼の頭を蹴り潰した。
目玉が潰れる嫌な感触に顔をしかめながらも、汐は弦をはじくような音を響かせた。
――ウタカタ 参ノ旋律
――束縛歌
汐の歌が響き渡り、たくさんの鬼達を一斉に拘束した。
その隙を突き、炭治郎と義勇が動く。
――水の呼吸 陸ノ型
――水の呼吸 参ノ型
――ねじれ渦
――流流舞い
二人の水の呼吸の技が、寸分の狂いもなく動きを止めた鬼の頸を全て弾き飛ばした。