第1章 噛まれたい噛みたい噛んじゃダメだ
「なるほどよく分かってらっしゃるが変態に違いはねぇ」
「本名は噛希好キ子と言います。その、一度吸血鬼に噛まれてみたくて…どんな感じがするのかなって」
「ここハンター事務所ですが?!」
再生したばかりのドラルクさんは、パーンと頭が砂になった。
「照れ死にかキメェ!…とにかくやめときなお嬢さん。仮性吸血鬼になるしな」
「いやまたとない良い機会!私は最近牛乳ばかりで舌が鈍りまくりだ。好意で差し出してくれている食事を食わぬは失礼!」
「ヌヌヌン!」
「イキイキしてんのがうざい」
「うーん、ここで噛まれて仮性吸血鬼になっても、ハンターさんがいれば市民に迷惑がかからないかと思ったんですが…」
「俺に迷惑がかかるのでダニにでも噛まれといて下さい」
「分かりました…じゃあ、他の吸血鬼に噛んでもら…」
「「ダメダメダメ!!!」」
「何でですか」
「他の変態どもに噛まれたら全裸んなったり、ビキニになったり、強制野球拳やらされたりするぞ!不本意だが砂はまだマシな方だ!」
「そうとも!あんな輩に私の好キ子さんを捧げるわけにはいかん」
「誰がお前の好キ子さんだコラァ!」
ドラルクさんは正面を殴られ、砂になった。
ジョンはヌーと泣いている。
「仕方ねぇ。ここにちょうど吸血鬼対策課から万が一の時のためにもらった、仮性吸血鬼を治す薬がある。噛まれたら速攻これを打てばいい」
「え、その紫の液体の注射を…?ヤダ過ぎる」
「俺はあんたの性癖がヤダ過ぎる」
ロナルドはゲッソリとした顔で言う。
「ではロナルド君、少し席を外してもらえるかな?」
「もらえるわけないだろ、お前が暴走しないか穴が空くほど見届けてやるわ」
「あの…噛まれる姿勢、こんな感じで良いですか?」
好キ子はうなじ周りの髪をかき上げた。
「ハブアー!」
ドラルクさんはまた頭がパパーンと砂になった。
「久しぶりに女性の生うなじを直視した、良い香りがした…」
「知らん、一生霧状くらい細かい砂になってろ」
「あ、あの、優しくして下さいね?」
ロナルドはソファーの隙間に頭をめり込ませた。
「はんっ!5歳児チェリーゴリラには刺激が強すぎましたかな?!」
「るっせぇ!早く噛むなら噛めや!」
では、と、ドラルクさんは後ろからそうっと歯を立てた。