第5章 時間遡行軍
雲に隠れた月が姿を現した様子を眺めながら、大きく息を吐いた。恐らく三日月宗近に普通の幼子では無いことを勘づかれた。
それもそうだ。あの日、大侵寇の時の三日月宗近に重なってしまった。だから思わず名を呼んだ。この人生で一度も呼んだことの無い名を。
普通じゃないことしか気づかれてないなら別に構わない。
「でも……なんで時間遡行軍が……」
気になるのは、何故私を時間遡行軍が襲ったか。私は別にこの世界で何もしていないし、将来性も期待してない。それに、審神者になるつもりも毛頭ない。
ならば何故? 前世の記憶があるから? 平行世界の人間だから? それとも刀剣乱舞のユーザーだったから?
考えても分からないことに思わずため息が漏れた。どんなに考えたって、答えはそう簡単には出てくれない。
時の流れが解決してくれると言うけど、そんないつ分かるか分からないものに頼りたくはない。考えられる要点はひとつ。
「見捨てられなかったか……」
自分ではそのつもりは無いけど、かつての友人達には言われていた。心根が優しいと。
心根が優しいが故に一度知ってしまったことは余程のことがない限り、放っておけないのだ。そう、つまり関わってしまう。流されてしまう。
私はそういう弱い人間だ。
「あーあ……どうしよう……」
生きる意味も生きる目的も無いのに、恐らくこのまま生かされ続ける。肥前忠広達が助けてくれたのがいい例だ。
何をそんなに気に入ってるのかは分からないが、私の危機には絶対駆けつけてくれる。
これが自分の本丸ならどれほど楽に考えられたか。なんて、人の醜さが見て取れる。
「嫌な人間になったな……私も」
かつての記憶があるからか、それなりに人間らしいと思う。社会に揉まれてだいぶ汚くなった。何も知らない無垢な幼子の振りをするのは難しい。
年齢にあわせて喋り方を変えるのも。そろそろ疲れてきた。おかげさまで学校では隠してないからいじめの標的にされるのだけど。
人間の嫌な部分は全部見てきた。汚い所も全部。そんな私が審神者になることが出来るのか。いや、恐らく、ならざるを得なくなる。
「いつか……そうなる時が……」
ぽつりと呟いてやめた。未来の事はまだ分からない。なら、このまま揺蕩っていよう。
七つ。七つになった。後はもう一瞬だ。
さて、関わるかな。