第6章 素直 後編【※錆兎】
「でも、なんか懐かしいな。」
「え?」
「選別の時もこうやって、お前の怪我の治療をしてやっただろ?」
「あっ…、」
陽華が何かを言いかけて、口を噤んだ。その態度に、錆兎が驚いた顔を見せる。
「まさか、忘れたのか?」
「わ、忘れたことなんか、一度もないわよっ!……だって私、あの時のこと…貴方に……まだ…、」
最後の方、消え入るように呟いた陽華の顔を、錆兎が覗き込む。
「ん?…なんて言った?」
「なっ、なんでもないわよっ!!」
慌てて、錆兎から顔を背ける陽華。その態度に錆兎は首を傾げた。
そうしてそのまま黙りこんでしまった陽華を横目に、錆兎は自分の腕の傷に、視線を移した。
意識を持っていかれそうなレベルでぶつけたが、傷はそんなにひどくなかった。どっちかというと、打撲のような、鈍い痛みの方が強い。
一応、薬を塗っておこう、そう思い錆兎が塗り薬に手を伸ばした。すると陽華が、その手を掴んだ。
「…私がしてあげるわよ。」
そう言うと陽華は、もう片方の手も布地から出し、胸の上で布地が落ちないよう固定すると、錆兎の腕の傷を治療し始めた。
優しく腕を掴まれ、指に付けた薬を傷口に塗りこむ。
染みる筈なのに、なんだか心地いい。触られた部分から、熱が広がっていくような、身体が火照っていくような感覚に囚われる。
「はい、終わったわよ。」
若干、夢見心地で治療を受けていた錆兎の意識が戻される。
「…ありがとう。」
錆兎が陽華の目を見て礼を言うと、陽華は恥ずかしそうに顔を伏せ、胸の上で固定していた布地を解くと、肩からかぶり直した。
その瞬間、足元の布地が捲れ上がり、綺麗な形の脚が露わになった。
たまたま包帯など片付けようと、下を向いた錆兎の目に入り、思わず視線を向ける。
…コイツ、足も綺麗なんだな。
そういえば、いつも最後まで服を脱がさないから気が付かなかった。
そんなこと思っていたら、錆兎の視線に気づいたのか、陽華がサッと足元を隠した。
「あ……済まない。思わず…、」
……いや、どんな言い訳しても、ただ、やらしい意味で見てたとしか、思わないよな。実際、見てたし…。
そう思い、慌てて陽華の表情を垣間見る。