第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
大きな声を発して、陽華に近づいた人物。その姿に物陰から様子を伺っていた小芭内は、驚きあまり声を発してしまいそうになった。
なぜなら、その現れた人物は小芭内も良く知る人物。後ろ姿だろうが、遠目からだろうがはっきりとわかる、燃え盛る炎のような髪色が特徴の男……
「……れ、煉獄」
それは一学年下の煉󠄁獄杏寿郎だった。小芭内とは家族ぐるみの付き合いもあり、幼い頃から良く知る友人の一人だ。
その思ってもみない人物の登場に、小芭内の心臓が激しく鼓動を打った。
(なぜだ、なぜ煉獄がこんなところで……、いやそんなことよりも、なぜ氷渡と二人で………)
いや待てよ?二人とは限らない。陽華と杏寿郎は同じクラスだ。数人のグループで、繁華街に出かけることだって……
しかしそんな甘い考えは、すぐに打ち砕かれる。
「杏寿郎君!」
杏寿郎の姿を確認した陽華が、無邪気な微笑みを見せる。
(きょ…じゅろう……くん?)
やけに親しげな様子に小芭内の心臓がドクドクと跳ね、その苦しさに思わず胸を抑える。
二人はそのまま軽く言葉を交わしたかと思うと、横並びに並び、目の前のスクランブル交差点に向かい歩き出した。
その仲睦まじい姿がこの場にいるリア充どもと重なり、溶け込んで、そして消えていく。
小芭内はその場に金縛りにでもあったように動けず、立ち尽くしたままの姿で二人の後ろ姿を見送った。
(まさか……煉󠄁獄……と?)
想定しなかった訳じゃない。実弥からも苦言されていたのだから。
だが、いざ眼の前で現実に起こると、その衝撃は自分で思っていたよりも重たく、小芭内の胸に伸し掛かってきた。