第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
そんな挙動不審な陽華の横で、痺れを切らしたイライラ顔の実弥が、小芭内に問いかける。
「で、どうなんだァ?美味いのか、美味くねェーのか?」
「それは………、別に…悪くはない。むしろ、好きな方だ。」
素直に感想を告げる。その途端、陽華の顔がぱぁーっと明るく輝いた。
「本当ですか!?」
こんな返しなんかして、陽華をまた調子づかせるだけ……とも思うが、わざと嘘をついて傷つける事もない。
小芭内がコクリと小さく頷くと、陽華は心から嬉しそうに顔を綻ばせ、
「良かったぁ、本当に嬉しいです!」
屈託ない、可愛い笑顔を小芭内に向けた。
その瞬間、小芭内の胸が一段と大きく、ドクンっと音を立てて跳ねた。
その苦しさに、思わず胸を抑えるように軽く手を当てる。……鼓動が早い。
それに引きづられるように、顔が熱を持ったように熱くなっていく。それを悟られぬよう、小芭内は平静を装うと軽く視線を逸らした。
たぶん…今のは、気の迷いでも勘違いでもない
だって、本気で思った………
陽華がかわいい……と…
ずっと、騙されるなと否定してきた。
だが今、自分の告げた感想に喜び、陽華が浮かべた笑顔に、その純粋な瞳に、嘘はないとそう感じてしまったから……
俺は、少しは自惚れても…いいのか?
自分の胸に感じる戸惑いながら、ちらりと陽華を見やる。すると陽華は安堵に胸を撫で下ろすように「はぁ…」と吐息を吐いた。
「…安心しました。不味いから二度と持ってくるなっ!とか言われたら、どうしようかと思ってたんです。」