第15章 初恋 前編【伊黒小芭内】
5月も終わりかけの、ある日の放課後。
キメツ学園・3年筍組の伊黒小芭内は、下駄箱に入れられた匿名の手紙によって、体育館裏に呼び出された。
小芭内が体育館裏に着くと、待っていたのは同じキメツ学園の制服を身に纏った女子生徒だった。
「伊黒先輩、好きです!付き合ってくださいっ!」
その少女に開口一番そう告げられ、小芭内は思わず周囲を確認した。そして他に誰もいないと確信すると、目の前の少女に問いかけた。
「……お前、俺に言ってるのか?」
「えっ!?だってここには先輩しかいませんし、ちゃんとお名前も言いましたよね?」
まさかの問いかけに瞳をぱちくりとさせる少女を、小芭内は訝しげな目でまじまじと見つめ返した。
黒目がちのぱっちりとした大きな瞳に整った顔立ち、ぷっくりとした桃色の唇に、お人形さんのように白い肌。統計を取れば、かなり上位の美少女の部類に入る。
背は小芭内と同じくらいか?ゆるふわにウェーブの掛かった胸までの髪は少し明るく、身に纏った学園の制服を流行りに合わせて、軽く着崩している。
これはどこをどうみても、小芭内とは縁の無さそうなイマドキの女子高校生。
(ん?……よく見るとこの女、どっかで見たことあるな)
確か一学年下の後輩で、名前は氷渡陽華と言ったか?去年の今時期にキメツ学園に転入してきてすぐに三大美女の仲間入りをしたと、学園中の男子が(特に村田が)、騒いだほどに人気の高い女子だ。
そんな女が、なぜ自分を?
小芭内は再度周りを見渡した。
(からかってるのか?とりあえず、周りには誰もいなさそうだが。……それとも、嬉ションでOKなんかして、後から『ドッキリでした!』なんて言われて、笑い者にされるパターンなのか?)
でなければ、自分がこんな美少女に告られるわけがない。なんせこのキメツ学園はイケメンの宝庫。