第14章 進物・番外編 義勇誕生日記念【※冨岡義勇】
「だって私、まだ自分が目標に掲げていた『暖かな日に溢れた世界』に、全然近づけてません。」
そう言った陽華の瞳が、落ち込んだように陰る。
"もう誰も奪われることもなく、悲しむことのない、そんな暖かな日に溢れた世界"
それは鬼殺隊に入ろうと決めた陽華が、初めて目標として掲げたことだった。
「勿論、私一人が頑張ったって、叶えられる夢とは思ってないです。……だって、鬼殺隊が何百年もの間、成し遂げる事が出来なかった世界ですから。」
でももし、そんな世界が、この先の未来に本当に実現するのなら……
「だったらせめて、その礎の一人ぐらいにはなりたいなって、思うんです。……なのに、私はまだ鬼殺隊に何も残せてません。継子だって、育ててないし…、」
本来なら、柱は継子を選び、自分にもしものことがあった場合に備えて、後継者を作らなければならない。しかしまだ自分は、その責務でさえ、果たせてないのだ。
「技の継承は勿論なんですけど、私は他にも、私が経験で得た知識や、その時感じた想い。それに仲間達の想いや、志半ばで亡くなった人達の想いも…、」
陽華はそこまで言うと、覚悟を決めたように、すーっと息を吸い込んで、吐き出すように言葉を続けた。
「そういうのぜーんぶひっくるめて、ちゃんと未来に繋いで行きたいって、そう思ってるんです!」
そう言った陽華の瞳から、強い意志が感じられ、義勇は驚嘆させられた。
「……そうか、お前らしいな。」
断られたことは残念に思うが、ここで「はい。」と頷く娘なら、きっと自分は選んでなかった。自分はこの強さに惚れたのだ。
義勇は一つ頷くと、穏やかに微笑んだ。
「承知した。俺はお前の意見を尊重する。」
「ありがとうございます!!」
にっこりと微笑み、元気よく返事を返すと、義勇は優しく陽華の頭を撫でた。
「…だが、陽華。意見は尊重すると言ったが、いくつか言って置きたいことがある。」
「ん?」と顔を上げて、可愛く見つめてくる陽華に、義勇は突然、厳しい先輩隊士しての表情を向けた。