第12章 進物 後編【冨岡義勇】
大通りを抜けて、義勇と二人、街の反対側に出る。するとそこには大勢の人集りが出来ていた。
集まった人々の目的は、陽華達と同じく、本日開店した娯楽施設『忍者屋敷迷宮』だ。
「ほえ〜、結構人いますね?」
忍者屋敷を囲う黒い板塀や門の周りに溢れた人々を見て、陽華が声を上げる。
「今日、開店したばかりだからな。」
「これは少し、並ぶかもしれませんね?」
陽華達は物珍しげに辺りを見渡しながら、屋敷の門へと近づいた。
門の前には、本日開店!と書かれた幟旗や、この施設についての説明が書かれた看板が置かれていて、陽華はその中に【愛の鐘】の文字を見つけて、顔を高揚させた。
(……愛の鐘。義勇さんに、一緒に鳴らしてください!なんて言ったら、告白してるようなもんだよね?……やばい、なんかドキドキしてきちゃった。)
陽華は早る鼓動を抑えるように胸に手を当てると、義勇の横顔をチラリと盗み見る。
緊張のせいか、先程よりもさらに、男前が上がったように見えて、神々しく思えてきた。
(きゃー、めちゃくちゃ格好いいんですけどっ!
……でも、義勇さん、私が好きだって知ったら、どう思うかな?……やっぱり迷惑…かな?)
そう思うと、途端に不安がこみ上げてくる。
考えてみたら今まで、義勇に女性の影や浮いた話など、一度も聞いたことがないからだ。
きっと真面目な義勇のこと。本懐を遂げるまではと、自分を律して、鬼殺に邁進してるのだろう。
そんな義勇に気持ちを告げるなど、やはり迷惑でしかない気がしてくる。
(でも、待って!?)
もしかしたら、言わないだけで、もうすでに大事に思っている、本命の女性がいる可能性もある。
(今までそんな素振りなんて、少しもなかったから、気にしたことなかったけど、義勇さんだってもう、立派な大人の男性だもの。そういうことも…あるよね?………もし、そうだったら……私…どうしよう……、)
今まで感じたことのない焦燥感のようなものが胸に込み上げ、陽華が落ち込んだ顔で俯く。
「どうした、今度は百面相か?」
「え?」