第8章 指南【※竃門炭治郎】
呼吸が落ち着くと、炭治郎は汚してしまった、陽華の身体をちり紙で拭った。
綺麗に拭き終わると、突然、陽華が炭治郎の胸に抱きついてきた。
「うわっ、どうしたの?」
「炭治郎、ありがとう。」
「え?」
炭治郎が戸惑っていると、顔を上げた陽華が上目遣いに、炭治郎を見た。
「だって、前と全然違うから。…もしかして…その…、色々と勉強してきて…くれたん…でしょ?」
その問いかけに、炭治郎は少し気まずそうに視線を反らし、頭を掻いた。
「まぁ…その、神の指南を…ちょっとだけ。」
「神?」
陽華が、不思議そうに顔を傾げた。
「そう。……だって前回、俺焦って…、失敗しただろ?……陽華にも、痛い思い、たくさんさせちゃったから……、」
「失敗?…確かに初めてだったから、すごく痛かったけど、そんなことよりも私は、炭治郎と一つになれたことが……一番、嬉しかったから……、」
そう言って、嬉しそうに微笑む陽華に炭治郎は胸が締め付けられるほど、嬉しくなった。
「だからもう、失敗とか言わないで?私の中では素敵な…、初めての思い出なんだから。……それに、焦ってる炭治郎、可愛かったよ?」
思い出して、くすくすと可愛く笑う陽華に炭治郎が苦笑いを浮かべた。
「本当に、君には敵わないな。……ありがとう、陽華。」
そう言って微笑む炭治郎に微笑返した後、陽華は恥じらうように炭治郎を見つめ返した。
「……でもね、炭治郎。……今日のもすごく、その…良かったから……、」
そう言いながら、ゆっくりと陽華の顔が炭治郎の顔に近づく。
「だから……、」
炭治郎の耳元まで近づくと小さく囁いた。
「また……してね?」
次の瞬間、炭治郎の顔が真っ赤に染まり、陽華はさらに楽しそうに笑った。
……君は本当にずるい
その時もまた俺は君の可愛さに動揺して、焦って、そして翻弄されるんだ
きっと俺が主導権を握ることなんて、一生ない
だって俺は、君に尽くすだけの奴隷なんだから…
炭治郎は近いうち、また音柱の家の門を叩く日が来るだろうと思った。
神の指南を受けるために。
ー 指南 完