第7章 22【※冨岡義勇】
季節は春。任務を終えたばかりの水柱・冨岡義勇は、朝イチで蝶屋敷の門を叩いた。
寝ぼけ眼で扉を開けてくれた蟲柱・胡蝶しのぶは、恨めしい顔で義勇を見つめた。
「冨岡さん、まだ診療の時間ではありませんが…、」
「胡蝶、助けてくれ。陽華が猫になってしまった。」
「は?」
蝶屋敷・一般診療室
胡蝶しのぶの前に差し出されたのは、鬼の血鬼術によって、猫耳と尻尾の生えた親友の姿だった。
「にゃー。」
姿も心も猫になってしまった親友を見て、思わずしのぶは叫んだ。
「可愛いぃ~♪…これは噂の…ご都合……ごほんっ!鬼の血鬼術ですね。」
「身体の方も、いささか小さくなった気がするんだが、治るか?」
子供とまでは行かないが、いつもの陽華より、一回りは小さくなっている。義勇が心配して問いかけると、しのぶは安心させるように微笑んだ。
「まぁ、鬼は倒したと言うことですし。いつも通りであれば、日に当たり、鬼の毒素を抜けば、数日で完治すると思います。」
「それならば、良かった。」
そう言って、陽華を連れて帰ろうとする義勇を、しのぶが止めた。
「冨岡さん、何処行くんですか?…入院ですよ?」
「お前のところも大変だろう?いつも通りの血鬼術であれば、入院でここの者の手を、煩わせるわけにはいかない。…俺が面倒見る。」
「冨岡さん、猫を飼ったことは、あるんですか?」
「……ないが、元は陽華だろう?問題ない。」
「…問題だらけだと、思いますが。」
止めるしのぶの言葉も聞かずに、義勇は陽華を抱えると、診察室から出ていった。
その後ろ姿を見ながら、しのぶはため息を着いた。
「私は貴方が危険だと、言っているんですよ、冨岡さん?」
そう呟いて、しのぶは診察室の窓の外に目をやった。蝶屋敷の庭には、優しい春の日差しが降り注いでいた。