第6章 素直 後編【※錆兎】
眠りから目が覚めた錆兎は、隣に寝ているはずの陽華がいなくなってることに気付き、慌てて布団の中を手で探った。
またアイツ、先に帰ったのか?
「陽華っ!!」
「な、何よっ!?」
慌てて起き上がり、名前を叫ぶと、小屋の隅の鏡台の前で、身なりを整えていた陽華が、驚いて錆兎を見る。
陽華の顔を見た途端、錆兎が大きくため息をついた。
「なんでお前、隣にいないんだよ?初めて二人で、床の中で夜を明かしたんだぞ?……起きたら、目を合わせて、恥ずかしそうにはにかみ合う!ここまでが、普通の流れだろ!!」
錆兎の驚くほどの夢見がちな発想に、若干引いた顔で、陽華が錆兎を見た。
「なんだよ、その顔は!?」
「………別に。そんなことより、朝ごはん作ったから、食べなさいよ。」
そう言って、目線を囲炉裏に送ると、錆兎が驚いた顔で、囲炉裏を見た。鉤棒に吊るされた鍋の中から、食欲を誘ういい香りと、何ががグツグツと煮込まれた音がしてる。
「…有り合わせだけど。」
陽華の手作り!?
錆兎は急いで起き上がると、隊服に手を通し、身なりを整え、囲炉裏の前に座った。
差し出された野菜などが煮込まれた汁の入ったお椀を受け取り、その中身をじっと見つめる。
陽華の手作り。
心して、ひとくち口に運ぶ。
ごくっ。
う、うまいっ!
……これはもう、俺の嫁、確定だな。
錆兎が感動して、うんうんと頷きながら、そんな妄想に浸っていると、陽華が錆兎を伺うように話しかけて来た。
「……ねぇ、どう?」
そう聞かれ、感動で感想を言うのを忘れてたことを思い出す。
「あぁ、美味い。」
錆兎がそう言って微笑むと、陽華は嬉しそうに顔を綻ばせて「良かった。」と呟いた。
……なんだこれ、幸せか?
そのあまりの可愛さに、錆兎は感動して、こっそりと涙を潤ませた。