第66章 ❤︎ 初恋は実らない 宮治
二十代前半最後の年、右葉曲節ありながらも店の経営もそれなりに順調で俺は独身ライフを楽しんでいた。片割れの兄弟もバレー人生を謳歌しているようであえて口には出さんけどツムがバレーの世界で爪痕を残すことを応援していた。
そんなツムから珍しく連絡が来たんは二日前のこと。12月半ばの雪の降った夜。〝報告があるから店に寄るわ〟と素っ気ない一文についに来たか…と俺は腹を括った。
報告、それは俺らの幼馴染でありツムの彼女でもあるいちかとの結婚報告。いずれはこうなる運命やと分かってはいたけど鈍い痛みが胸に広がる。忘れることもできず諦めきれないままだった恋心が胸の奥でまだ燻ってる。けどのその感情を表に出すことはないとずっとそう思っていた。
「酔ってんのか?」
「そんな酔ってへんてぇ。ちょっとだけ、ほんまにちょーっとだけ飲んできだけ」
約束の時間を30分ほど過ぎてから侑は店にやってきた。酒に弱いくせにほぼ酔い潰れた状態で呂律も回っていない。結婚報告を聞いたら祝杯でもあげようと日本酒ははこのままで、冷たい水を出す。
「ちょっと頭冷やせ」
「たまにはええやん。俺やって飲みたい日あんねん」
「そらええ大人やからええけど。今日話あるんちゃうんか?」
「あー、それな…」
「ついに結婚するんか?いちかと…」
中学3年から幼馴染と付き合ってきて、選手としても成績を上げて誰もが羨むような順風満帆な人生送ってる。改めて話がある、なんて前置きされたらいよいよ結婚かって誰でも思う。俺も片思いを引き摺ってるわけやないけど年貢の納め時が来たんやなと静かに息を吐く。
「俺じゃあかんかったらしいわ」
「……は?」
「ごめん。別れた」
「……冗談やろ?…」
「いや、ほんま…。あいつもそろそろ結婚意識してるやろと思って指輪買いに行くか?って言うたら押し黙って、別れて欲しい、やて」
「ちょ、待てって…。お前ら何年付き合ってんねん。今更別れるってありえへんやろ?」
「中3の終わりから付き合ってるから10年になる。去年はもうすぐ10周年やなぁ言うて二人で話してたんやで?プロポーズすんならそん時やなって俺、あいつに言ってんで?」
「ほんまなんかそれ…」
「俺やって嘘やと思いたいわ…」