第64章 ❤︎ 木兎光太郎はスローセックスを覚えた
「あぁぁぁ…、超気持ちよかった」
ごろんと仰向けで寝転がって見上げた天井のダウンライトが汗ばんだ体を照らす。汗は額を伝ってゆっくりと流れ息を整えながら爽快感と多幸感に包まれるこの瞬間はなんとも言えない。だって隣には愛しい彼女がいるから。
「あのさ、光太郎…」
全力疾走した後の爽快感にふわっと浮かぶようないちかの声が心地いい。
「んー?何…?」
「あのね……」
もしかして二回目のおねだり?なんて甘い予感が走る。じっと見つめていちかの次の唇が開くのを待つ。
「しばらくエッチするのは止めない?」
期待外れどころか奈落の底へと突き落とされるような言葉に一瞬思考が止まる。
「誤解しないで欲しいんだけどね。…最近結構するのが続いてるでしょ?だから体が持たなくて」
「え、え!?」
「光太郎とするのは気持ちいいんだけどどうしたって体力差があるし、さすがに続けては疲れちゃうというか…」
「ごめん!俺、そんなつもりじゃ…」
「光太郎は悪くないの。私の体力がないだけで…。でもしばらくはするの控えて欲しい」
“悪くないの”って言われてもそれって絶対俺のせいだよな…?控えて欲しいってしたくないってことだもんな…?
「そっ……か、そりゃそうだよな」
「ごめん」
「いやいいっていいって。……でもさ、またしたいって思ったら言って?」
「うん。ほんとにごめんね」
「気にすんなって。明日も早いし寝よう」
ここで俺があからさまにショック受けたらいちかが傷つくと思って、泣きそうになるのを精一杯に堪えた。でもこの日は一睡もできないくらいの精神的大ダメージを受けていた。翌朝、瀕死状態の俺は赤葦に緊急事態と称して呼び出した。