第53章 ❤︎ 俺のものだから返してもらうだけ 及川徹
「落ち着いた?」
「…うん」
「はい、お茶」
「ありがと…」
着替え終わりソファーに隣に座るいちか の隣に腰掛ける。目の前には床に雑に置かれたドレス。余韻はまだ残ってるけど目の前の光景に一気に現実を突きつけられる。
「衣装、汚れちゃったね」
「そうね。でもクリーニング代払えば大丈夫だと思う」
「なら俺が払っとく。次借りる人には悪いけど俺たちには必要ないでしょ?」
「……うん」
「こうなっちゃ夫君との結婚はキャンセルだね」
「……こんな気持ちのまま結婚なんてできない」
「なら今度は俺がいちか に似合うウエディングドレスを選んであげるから」
「ねぇ徹」
「何?」
「私と結婚って本気?」
「当たり前でしょ?本気だよ」
「困ったな」
「え?なんでさ?」
「何でこんな時になって再会しちゃったんだろうね」
「ほんとにね。でもそんな運命には逆らえないくらいに結ばれてるってことなんだよ」
いちか は俺をじっと見つめてる。亜、これってもしかしてキス待ち?なんて期待して顔を近付けるもいちか は顔を背ける。
「……ロマンチックでいいけどちょっと待って」
「何?」
「その前にこれからどうするか真面目に考えて」
「返してもらう、ってそれだけ」
「そんな簡単なことじゃないよ。殴られるよ?」
「そのくらいいいよ。今までどんだけ岩ちゃんに殴られてきたと思ってんの」
「それとこれは関係ない」
「とりあえずそんな指輪さっさと捨てて、今から俺と新しいの買いに行こう」
「今から?」
「そ。それでも夜は二人でデートしてもう一回ちゃんと抱かせて?」
「……そういうとこ全然変わってないね」
「そうだよ。あの頃と同じ。欲しいものは全力で奪うまでだよ」
「徹には敵わないね」
「うん、そう。だから俺と幸せになる覚悟しといてね?」
俺の言葉に頷きながら恥ずかしそうに見つめて今度はちゃんとキスを受け入れてくれた。
こんな展開になったら岩ちゃんに言ったら間違いなくぶん殴られそうだけど、結果的に祝福してくれるに決まってる。
夫君には悪いけどこんな逆転展開だって有りでしょ…?
fin.