第49章 ❤︎ 甘い夜と嫉妬に揺れる夜 岩泉一
▷▶︎嫉妬に揺れる夜
≫一side
そんな風に彼女を想ってただ甘く夢うつつに過ごす夜もあれば、真逆に嫉妬に狂わされる夜だってある。
いつもよりも帰りの遅いいちかの帰宅を待ちながら静かなリビングでぼんやりとスマホの画面を眺めていた。
平静を装っていても脳裏にちらつくのは偶然街中で見かけたのは俺の知らない男と並んで歩くいちかの姿だった。スーツ姿の相手だったから会社の奴だろうと分かってはいるけど遠くからでも分かる仲の良さそうな雰囲気に戸惑った。
「ただいま」
「おかえり」
外はもう真っ暗でドアが開かれるとむわっとした湿気の多い空気が入ってくる。充実感に満ちた笑顔のいちかとは対照的に俺の気持ちもこんな風にどんよりと重い。
「はぁ、蒸し暑かった。ここはクーラー効いてて天国だね」
「ん、水…」
冷蔵庫から取り出したペットボトルの水を渡すと“暑かったぁ”と頬を冷やす。
「ありがとう。今日は一日歩き回って疲れちゃった」
「……見かけた」
「そうなの?どこで?」
「駅前」
「お昼前でしょ、それ。丁度ランチしようと思ってたんだよ。声掛けてくれたらよかったのに」
「お前が一人だったら声掛けてた」
「あ、一緒にいたのは同期だよ?今日は午前中一緒に買い出しがあったから」
「仲良いんだな、そいつと」
「そりゃ、まぁ、同期だし…。でもそれだけの関係だよ?」
そんな事は分かってる。けど俺のいないところで笑顔振りまいて一瞬恋人同士にも見えたあの光景が俺の嫉妬心を煽る。彼氏がいたって狙ってくる奴はいるし、今だって困惑してるような表情見せたってブラウスから見える鎖骨や胸の膨らみから腰にかけてラインが男を誘ってるみたいで癪に障るんだ。
「…ごめん。一、なんか怒ってるよね」
「なんで謝るんだよ。なんかやましいことでもしたのか?」
「してないけど。怒ってるっぽいし」
「怒ってねぇけど、あんなの見ると気分はいいもんじゃねぇよな」
「部署も別だし会社に戻るの面倒だったから昼だけ一緒に食べたの。言っとくけど男の人と食事したのなんて初めてなんだよ?」
いちかが悪くないのは分かってる。けどムキになって反論するのも気に入らない。逆に今まで飯食いに行った事ねぇってなら断ってくれりゃよかったんじゃねぇの?って子供じみた自分勝手な感情ばっか出てくる。
