第45章 ❤︎ もしも岩ちゃんがスイミングインストラクターだったら…
夢見心地で歩く帰り道。好きな人と一緒にいられることがこんなに幸せで満ち足りた気分になれるなんてご無沙汰過ぎてすっかり忘れていた感覚だ。
「一さん…」
「ん?」
一さんの視線の先には私だけが映る。だけで熱くなってしまう。今からこんなのでいいのかなとすっかり浮かれてしまっている私の目を覚まさせるように聞きなれた着信音がその場に響いた。スマホを取り出してぱっと見えたのはこの幸せな雰囲気をぶち壊す見覚えのある番号。
「電話、出なくていいのか?俺のことなら気にしなくていいから」
気を遣ってそう言ってくれたけど今は絶対に出たくない。
「や、……でもっ、どうしよう…」
私のしどろもどろな返答に一さんも察したのか急に表情が曇る。
「……元彼か?」
「……ですね」
「電話貸せ…」
「でも…」
真剣な表情でスマホを取ると通話ボタンを押す。私が不安にならないようにかぎゅっと手を握りしめてくれた。
「…はい」
その声はいつも私が聞いている声よりもずっと低い。
正直に私の彼氏であることを告げると元彼はスマホの向こうで激昂している様子。思えば喧嘩の時はいつもうこうだった。怒鳴り散らした挙句にそれでも気に入らなれけば手がでる。今でもあの光景がフラッシュバックのように蘇ってくるけど、今はわた私の盾になってすぐ側に感じる温もりだけが救いだった。
「…とりあえず言いたいことはそれだけか?ひとつ忠告しておいてやるけどこの通話内容は全部録音してるしお前の個人情報も把握してる。これ以上脅迫するようなことがあるなら然るべき対応に出るから」
元彼からの罵声ともとれる言葉に表情ひとつ変えないで冷静に淡々と応え始めた。
「いちかはもうお前のもとには戻らないことだけも確かだから…。素直に身を引いた方がいい。話はそれだけだ」
そう言い終えると静かに電話を切った。元彼が納得したかどうかんて正直どうでもよかくて私のことを守ろうとしてくれたことがすごく嬉しかった。
「ごめんなさい。変なことに巻き込んじゃって」
「いちかはもう他人じゃねぇからな。」
「特別な存在ですか?」
「こういうことがあったら尚更な?ちゃんと守ってやんねぇとって思って。これからお前に手出したりしねぇかってそれが心配だ…」