第41章 恋する細胞 岩泉一
アウトレットモールまではバスで20分程だった。帰宅する生徒もちらほら乗り合わせていて、女の子の視線が相変わらず痛い。岩泉君って学校でも有名なんだろうか…、ふとそんなことを思って見上げると、真っ直ぐに窓を見つめる端整な横顔。
「なんだよ」
「いや…、あの、…岩泉君もよく買い物とか行くのかなと思って」
「ああ…、たまにな。つっても部活のメンバーから誘われてとかだけど」
「そうなんだ。私、ほとんど行かないからよく分からないだけど大丈夫かな」
「平日だし人も空いてるだろ。服見たいから付き合って貰っていいか?」
“付き合う”って言葉に思わずドキッとするけど、嬉しさをぐっと飲み込む。
「……私で良ければ」
「なんだよ、素直になれるんじゃねぇか。そっちの方がいいから今日はそれでいろよ?」
「え?私そんなつもりで…」
「言ってねぇかもしれないけど、俺がそっちの方がいいって言ってんの。な?」
「……はい」
バスに揺られる中、胸いっぱいに熱い気持ちが広がっていく感じがした。ドキドキしっぱなしだし常に岩泉君のペースなのに、むしろ嬉しくて初めての感情を持て余していた。
はじめはメンズ服売り場へ向かった。平日ということもあって人は多くはなかったけど色んな制服の中高生がフードコートやゲームセンターを賑わしている。
岩泉君は平然としているけど、私の感じているこのアウェイ感はきっと分からないんだろうな。
「あの店寄っていいか?」
「あ、はい」
「なんだよ、はいって…」
「ごめん、まだ慣れなくて」
「まぁいいけど…。とりあえず二、三枚Tシャツ買うか」
「部活用の?」
「そうだな。別に買っても結局そうなるんだよな」
「でもね、根性論のTシャツもよかったよ。変って言っちゃったのは言葉の綾で悪意はないの、本当に」
「…んなこと分かってるよ。気にすんな。俺はあのTシャツ気に入ってるし、後輩からも先輩らしいですって好評だから」
「私なら先輩が根性論なんてTシャツ着てたらビビっちゃうかも…」
「そりゃそうだろうな。一年なんて触れてもこねぇし」
「お気の毒だね。一年生も…」