第31章 ❤︎ infection... 月島蛍・黒尾鉄朗
何も変わらない、いつも通りの一日だった。
ただ普段と違っていたのはいちかの向ける笑顔に嫉妬していただけ。
ねぇ、僕以外にそんな風に笑いかけないで…。
昼下がりともなれば体育館の中は更に熱気を増して、立っているだけでも汗が流れ落ちる。イライラしたくはなくてもこの状況下、それは無理な話だ。
「けーいちゃん、どうした?なんかイライラしてる?」
暑苦しい中、一人爽やかに手を振る黒尾さん。
「音駒の休憩所は向こうですよ?暑さで頭がやられましたか?」
「いや?なんとなく機嫌悪そうだったから話しかけただけ」
「機嫌悪いの分かってて話しかけるなんて悪趣味ですね。…ただ暑いだけです」
「にしてはさぁ、すんげーイライラしてね?」
「してません。というか暑いのでこれ以上近寄らないでください」
「まぁそう言うなって。ひとつ聞きたい事があって来たんだよ」
「なんですか?」
「そっちさ、マネ一人入ったの?見かけない子がいるんだけど」
「ああ、いちかですか?」
「いちかって何?蛍ちゃんと特別な関係なの?」
「彼女です、僕の」
「………へぇ、以外。お前ってそういうタイプだっけ?」
「何がですか?」
「だって自分の彼女とか紹介するような奴じゃねぇだろ」
「黒尾さんに目をつけられると厄介なんで先に言ったまでです」
「俺だってさすがに人の彼女まで狙わねぇけどさぁ…、でも結構好みなんだよな。さっき声かけたらめちゃくちゃ笑顔で応えてくれたし」
「………そうですか」
「案外天然っぽいから蛍ちゃんも気をつけろよ。先輩としてアドバイスしとく」
「…それはどうも」
気をつけろって、一番気をつけなきゃいけない人に言われても…。黒尾さん、絶対ワザとですよね…。
ああ………、すごく、嫌だ。
この纏わり付くような感情…。
暑さと苛立ちと気持ち悪さが、徐々に理性を崩していく。