第30章 ❤︎ 恋に落ちる条件 松川一静
「誰もいないね」
「もう授業始まってるしな。…ここなら誰も来ないと思う」
「なんかいけない事してる気分だね」
「また指導室呼ばれんのは嫌だけど」
「あはは。そうだよね。…でも松川と一緒ならいいかも」
「なんで?」
「庇ってくれるから。…ってのもあるけどなんでだろ、今そんな風に思ったんだ」
「俺もいいよ、柳瀬となら」
「ありがと。…でもこんなに迷惑かけたのに松川も変わってるね」
「よく言われる」
俺の言葉に“あはは”と声をあげて笑い、ごろんと芝生に寝そべる。
「汚れない?」
「普段はしないんだけどね…。今日は天気もいいし気分も清々しいんだ。……徹の事も全部忘れられそうだもん」
「うん、吹っ切れたって顔してる」
「そう?」
「前まで暗い顔して及川の事追いかけてたから」
「めちゃくちゃ未練あったからね。……でももうそれも終わり!」
そう言って勢いよく起き上がる。俺を見て“松川のおかげだね”って笑顔と言葉に心動かされ、自然と口が開いた。
「なら次は新しい恋愛はどう?」
「えー?誰と…」
「俺と」
「…それ本気で言ってる?」
「今隙を見せたなって思ったから先制アピール。…柳瀬は信じないかもしれないけどずっと好きだったよ、俺は」
“へ…”と柳瀬はポカンと口を開いたまま、信じられないって表情。
「あのさ、松川ってさ………」
「何?」
「………格好いいよね」
「何だよ、急に…」
「徹しか見えないフィルターが外れたらさ、途端にそう見えてきたんだけど…」
「そう?」
「でもさ、考えてみたらヤバイよね。ドキドキなハプニングありなラブコメディ劇を繰り広げてきて急に現れた王子様展開…。恋におちる条件は揃ってんだよね」
「好条件だな。……で、柳瀬としてはどうなの?」
「客観的にも主観的にも飛び付きたい条件ではある…。でもさ、まだ好きとかそこまでは私分かってない」
「そんなのは期待してないから。これからゆっくり育めば?俺と…」