第29章 ❤︎ ALMONDROCA 花巻貴大
一人暮らしを始めたのは今の会社に入って5年目の事だった。
これまでの家族に囲まれた賑やかな日々からはかけ離れている生活だけど、日々の業務に慣れない家事のおかげもあって寂しさを感じることなく案外楽しい毎日を過ごしていた。
一人暮らしも一年が経った頃、抱えている仕事も落ち着いているという理由で連休明けに名古屋までの出張を言い渡されていた。出張といってもメインは研修。たかが研修のために名古屋まで行かなきゃいけないの?って疑問だけど仕事だから仕方ない。少し憂鬱だったけど仕事と割り切って研修の日を迎えた。
そして出張当日、特にトラブルもなく研修も滞りなく進んでいた。今自分が抱えてる仕事の分野で今後に活かせる事も多くて最後まであれもこれもと質問していたらお昼を食べる時間を逃してしまっていた。
本当はせっかくこっちに来たんだから何か名物料理を食べて帰りたかったのに、帰りの新幹線の時間を考えると閉店間際の社員食堂で済ませる他ない。
“いらっしゃい”と声をかけてくれた優しそうなおばさんに会釈しながらカウンターに並ぶ。
「何にしようかな」
「見ない顔だけどここの社員さん?」
「いえ、本社の社員です。今日は研修で」
「そうなの。せっかくこっちに来てるのに社員食堂でいいの?」
「帰りの新幹線もあるので外で食べる時間はなくて」
「それは残念だったね。じゃあ味噌煮込みうどんはどう?ここの社員にも人気だよ」
「名古屋の名物ですよね」
「そう。地元の人もよく食べるから看板メニューになってるの」
「じゃあその味噌煮込みうどんください」