第27章 ❤︎ キタサンブラック 北信介
「怒ってない、とは言うても…」
「え?」
「やっぱあかん、キスは未遂で終わったけどやっぱムカつくわ」
「本当にごめんなさい。私が軽率だったよね。でも少しでも会いたくて、でもこんなに信介が怒るなんて思わなくて…」
言葉にすればどんどん不安がこみ上げてきて声が震えてしまっていた。きゅっと胸が痛んで泣きそうになる。
「いちか、顔あげて?」
反射的に顔をあげると少し強引に力のこもった指で私の顎を上に持ち上げられてそのまま唇を重ねた。ふんわりと香るのお酒の匂い。
「俺に会いたくて来てくれたことくらい分かってる。ほんまは俺やって嬉しかった。けどあれが先輩やなくて他の男やったらって思うとどうしても……許せへん」
「信介、ごめ…っ」
「頼むから、俺の知らんとこで他の男から触れられるようなことせんといて」
お酒のせいなのかいつもの穏やかで優しい信介ではなかった。信介がじりじりと詰め寄り背中が壁にぶつかった。逃げ場が無い私の唇を強引に奪うと熱い舌が無理やり犯すように侵入してくる。
「んん……っ………んっ」
いくら夜とは言ってもこんなところでキスなんて…。でも一向に力は緩まくてまだ怒っている信介の目が私を捉えて離してくれない。
「今日は俺も自分抑えられへんわ」
切なげに呟く言葉。強く手を引かれて連れてこられたのは頼りない街灯が灯るだけのトイレ裏。薄明かりでも分かる獲物を捉えるような信介の瞳に全てを悟った。