第26章 ❤︎ 抱き締めた君との未来はなくても 菅原孝支
「後ろ向いて?」
このまま抱けば壊してしまいそうでいちかに背を向けさせた。生々しく残る白い肌に残っていた紅い痣も見えない。
「挿れるから」
「……うん」
呼吸を整えてからできるだけ何も考えないようにゆっくりと繋がった。いちかの体が仰け反り二人分の重みに安価なベッドが軋んだ。
「俺の我儘だけど…。今だけでいいから、俺のことだけ考えてくれない?」
返事は聞きたくなくて腰を掴んで膣壁に触れるまで深く突く。きゅっと絡みつくような感覚に合わせていちかが甘く鳴く。
「はぁっ、んん」
無我夢中で求めて余計な思考を快感で埋めて最後の瞬間は記憶の中の彼女を描いた。
最後までいちかが俺の名前を呼ぶことはなかった。
“いちか、好きだ”
“私も、すきだよ”
いちかの“すき”が特別な意味をもっていないことは理解している。でも俺を求めることで彼女の“痛み”を和らげることができるのならそれで良かった。
いちかを抱きしめる腕に手に明るい未来なんてないのかもしれない。またいちかは俺のそばから離れていってしまうかもしれない。
心に残り続けるそれでも…と願う切なさはいちかは知らなくていい。
fin.