第26章 ❤︎ 抱き締めた君との未来はなくても 菅原孝支
インターフォンが鳴ったのは23時も過ぎた頃だった。特にすることもなくてサブスクで適当なお笑い番組を観ながら手持ち無沙汰な時間を過ごしていた。
こんな時間に誰だよ、と怪しみながらドアをドアスコープから覗く。視界に入った想定外の人物に俺は目を見開いた。
「え、あれ?いちか?何、どうした?」
「ごめん。部屋の電気ついてたから」
暗がりでよく見えなかったけどメイクが落ちていつもより幼く見える素顔、厚ぼったい瞼に睫毛が濡れている。ハグを求めるように両手を広げて無邪気に笑うのは変わらないまま。すっかり冷え切ったいちかの体を抱きしめると“あったかい…”と肩に手を回す。
「寒い?体、冷え切ってるけど」
「うん、…ずっと外にいたから」
「今夜は冷えるって知らなかった?」
「知ってた。…でも、色々あって頭冷やしてたの」
「このままじゃ風邪引くから。とりあえず入って。話はそれから聞くから」
「突然来て悪いんだけど、お風呂、借りていい?」
「そりゃ…、別にいいけど」
「ありがとう。今夜は一人で過ごしたくなかったんだ」
こんな時間に俺を訪ねてくるんだからそれなりの理由があったのは明確だ。最後に会った時よりも随分と大人っぽくなったけどメイクが崩れているせいかやつれている感じもした。風呂のスイッチを入れて部屋の中へと案内した。
「ここで少し待ってて」
「お邪魔します」
「ちょっと汚してるけど」
テーブルの上には食べ散らかしたスナック菓子とアルコール。慌てて片付けながら一人分のスペースを空ける。
「ここ、よかったら座れば?」
「うん。……あ、これ。まだ写真飾っててくれたんだ」
いちかの視線の先には付き合ってた頃の二人の写真。それは某テーマパークでお揃いの帽子を被って笑顔で並んで写っている。