第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎
どれくらい泣いたか分からないけど、あれから落ち着きを取り戻して今は1人お湯に浸かりながら一日を振り返っていた。
まとめようにもまとめきれない程、一気に世界が変わってしまった日だった。もちろん迎えた結末に後悔はなかったけど、傷つけてしまった相手を思えばきゅっと心は痛む。
でもこのままでいいわけじゃない。鉄朗が幸せになれって言ってくれたから、大げさだけど私はちゃんとそれに応えるように生きていかなきゃいけない。
ハーブ湯のレモングラスの優しい香りと光太郎さんの言葉は涙を誘う。自分に何度も言い聞かせるように鉄朗への想いを自分の中で消化させようとしていた。
ハーブのおかげかすっかり温まった体は、水滴を拭き取るとすっきりと生まれ変わったような気分だった。鏡の前の私は泣きはらした赤い目をしていたけど、昨日より少しだけ大人になったようなそんな気もする。
束の間じっと見つめて決意を新たにする。
これから光太郎さんと二人で自分の未来を切り開いていかなくちゃいけない…そう言葉を描いた時だった。ぼーっとしていて鍵をかけ忘れていたんだろうか。浴室の扉が突然開いて、入ってきた光太郎さんと目が合う。
「…っ、え?、え?」
「わっ、ごめん…っ!鍵かかってなかったから」
「こっちこそごめんっ」
「いや、俺が悪い。もう男湯の時間だったから」
「嘘…!?私、ゆっくり入ってたから気付かなかった。ごめんね、すぐ着替えて出るから」
バスタオルを羽織る前だったからひょっとすれば見られちゃったかもしれないけど、今はそんなことどうでもいい。早く替わらないと…っ。
「いや、待って…」
その言葉に着替えを取ろうと伸ばした手が止まる。視線を上げればどこか伏し目がちに逸らしていつもより低い声で呟く。
「………このまま、俺の部屋とか来る?」
「…え?」
「いちかちゃんがいいなら…だけど」
いつもは自信に満ちているのに、こんな消極的な光太郎さんは初めてだった。
私にだってそれがどういう意味かくらいもう分かってる。触れてほしいって気持ちはそういう事だってことも…。