第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎
「鉄朗…、どうして?」
私、ここにいることを誰にも言ってないのに。
「迎えに来たに決まってんだろ?お前の家行って置いてあったパンフレット片手にここまできたんだかんな。わざわざ有休まで使ってよ…」
仕事の後でそのまま来たんだろうか。鉄朗は脱いだジャケット片手にシャツ姿だった。
「えー、誰?なぁいちかちゃんの知り合い…?」
険悪な雰囲気を割って入るようにいつものテンションで光太郎さんは話しかける。でも私を抱く腕にはぐっと力が籠もる。
「光太郎さん、あのね、…この人」
「こいつの彼氏だけど、随分親しそうにしてんだな…」
「あー、なるほど。どうも初めまして、元彼さん」
「は?何言ってんのこいつ。さっきも恋人がどうのって言ってたけど冗談だろ?
「この人はね、民宿でお世話になってる人でそれで私の…」
「恋人兼彼氏です…って同じことか。どうも、木兎光太郎です。今日からいちかちゃんの彼氏始めました」
いやいやいやいや、こんな時に軽いノリで…。
「こいつマジで言ってんの?」
「………うん、そうなの。私、光太郎さんと付き合う事になったの」
「じゃあ俺は…」
「だってもうとっくに別れてるし」
「ちょっと待て、俺はそんな風に思ってないんだけど…。確かに別れようって話にはなったけど俺はそんなつもりはなかったから」
「今更遅いよ。…それに私は鉄朗とは一緒にいられない。あのまま一緒にいても私たちはもうだめだったと思う」
「んなことねぇだろ?今までだってこういう事何回かあったし、お前なんかあるとすぐ別れるだなんだって騒いでよ…」
「でも、今回は本気だった。だから電話も繋がらないようにしたし東京も出たの」
「たかが旅行だろ?」
「鉄朗にしたらそうなのかもしれないけど。鉄朗のこを好きとか…そういうのももう分かんなくなっちゃってて……、自分なりによく考えて、別れる決意をして出てきたの」
「で、さっさとこいつに乗り換えたって?」
「乗り換えたとかそういうんじゃない。光太郎さんのことはちゃんと好き」
「あのなぁ。たかが一週間くらいで好きだのなんだのって展開が早すぎんだって。お前のそういう流されやすいとこ、どうにかと思うわマジで」