第17章 ❤︎ ぼくなつ 木兎光太郎
潮の香と爽やかな風が小さな船のデッキに吹き抜けていく。
“あと10分で到着予定です、船内にお戻りください”そうアナウンスされ慌ただしく船内に戻り、鞄の中の船のチケット、旅館の予約表をもう一度確認にした。
そういえばフェリー乗り場に旅館の人が迎えに来てくれると書いていた。封筒を見ると綺麗な達筆で名前が書かれてあって旅館の写真も添えられていた。
決して綺麗とは言えないレトロな外観だけど、作られたパンフレットじゃなくありのままの写真を送ってくれるところが嬉しい心遣いだ。
差出人の欄には“木兎光太郎”と書いてある。
お世話になる人だろうからちゃんと覚えておかなくちゃ…。
トランクとショルダーバック、つばの大きい帽子を被れば私も観光客の仲間入り。お盆明けで船の利用客も少なく乗り場にはあっという間に人はいなくなってしまった。テレビで見るような田舎町の漁港、小型船が並び聞き慣れないウミネコの声を背に歩く。
アスファルトから照り返る灼熱にくらくらしながら駐車場へ進むとワンボックスカーの前に一人の男性が立っている。私の名前が書かれた紙を持っていたらか一目で彼が“木兎さん”なんだとわかる。
「あ、柳瀬さんですか?」
「そうです。…木兎さん、ですか?」
「そーっす!俺です。ふくろう島へようこそ!」
元気な声と満面の笑みにこちらもつられてしまう。思ってたよりも随分若い、私より少し年上くらい…?もしかして旅館の息子さんとかかな。
「ここは熱いんでとりあえず車へ…。荷物はそれだけっすか?」
「あ、はい」
挨拶もそこそこに手際よく荷物を車へ乗せると後部座席のドアを開いてくれる。促されるまま車へ乗り込み、期待に胸膨らませるようにドキドキしながら車はゆっくり走り始める。
カーステレオから流れるサマーロック。この自然いっぱいの景色には少し不釣り合いだけど、見慣れない風景は私を非日常な世界へ導いてくれるみたいだ。
この木兎さんという人も個性的な髪型にくりっとした目、まくり上げたTシャツからは筋肉質な二の腕は小麦色に焼けている。自然の中で育ちましたと言わんばかりの風格。